
【非結晶性樹脂の残留応力検査について】
ポリカーボネート樹脂(以下PC)やポリスチレン樹脂(以下PS)の透明製品においてクラックが入ることがしばしある。
成形直後にこの割れが発生していることは少ない。
ほとんどが残留応力によって時間経過で発生しているからだ。
特にPCやPSをはじめ、非晶性樹脂は残留応力が残りやすいので、
クラックが発生しやすくなってしまう。
(※なぜ非晶性樹脂は残留応力が残りやすいかというのは、別途説明(残留応力によるソリ・変形を参照して頂きたい)を設けるので、ここでは割愛する。)
残留応力によりクラックが発生する場合、原因を追究し、状況によっては応力を緩和する目的でエージング処理を行うのが望ましいが、クラックが発生するかどうかも分からない場合に無暗に工程を増やすということは好ましくない。
【残留応力の確認方法について】
そこで重要なのが、残留応力の試験だ。
試験方法は大きく分けて2つ、「破壊検査」と「非破壊検査」に分かれる。
非破壊検査は、光学的、もしくはX線により、現品を破壊することなく測定可能だ。
しかし測定/解析には時間を要し、機材も必要となるので、自社で行うことは非常に難しい。
次に破壊検査だが、これはさらに「機械的測定」「化学的測定」に分けることが出来る。
機械的測定(物理的測定ともいう)は、試験片を切断し残留応力を開放させ、その変形量を相対的に測定する方法である。
化学的測定は、主に溶剤浸透法と呼ばれ検出限界応力がわかっている溶剤(特定の応力で材料にクラックを発生させる溶剤)に成形品を浸透させ、クラック発生の有無や大きさから残留ひずみ量を推定する方法です。材料メーカーに溶剤浸透法についての問い合わせをすれば、試験方法(溶剤/希釈濃度/時間など)の条件/データを提示してもらうことが可能かと思います。
例えばPCなら四塩化炭素もしくはメチルイソブチルケトンに、PSなら灯油に、浸透させると残留ひずみの度合いによって割れが発生する。
この化学的測定(溶剤浸透法)が最も簡易的に残留ひずみを検査することのできる方法なので、まずはこの方法から試していくのがポピュラーなやり方である。
【残留応力によるクラック発生の原因と対策について】
ではどういった場合に残留応力によるクラックが発生しやすくなっているのか、
またその対策について考えたい。
①オーバーパック
オーバーパックすることによる突き出し時に、成形品をのストレス(負荷)が増加する。
このストレス(負荷)=残留応力となり、クラックを発生させてしまう。
対策としてはVP切り替え位置の調整、保圧を下げると良い。
②金型温度
金型温度が低いということは樹脂の流動性が悪いということなので、製品全体に樹脂を回すためにある程度の射出圧力/射出時間が必要となる。オーバーパック時の対策で説明したが、極力圧力を落とした方が、応力は残らないので、型温を上げることが有効となる。
③型の磨き
金型の磨きが悪いと突出し時に、離型抵抗が発生し成形品に負荷がかかる。この負荷を取り除くことは必要不可欠である。
④エジェクターのバランス
エジェクターのバランスが悪いと突出し時の負荷が均一にならず、部分的に負荷が増してします。EPの数や位置、サイズなどは製品形状を十分考慮して決定して欲しい。
⑤インサート
インサート成形をする場合は、そのインサート付近に残留応力が溜り易い。
それはプラスチックと金属の線膨張係数が異なるからである。
対策としては極力線膨張係数の高い材質のインサートに変更することである。
また成形前にインサートを温めて、樹脂の流動を妨げないようにすることも効果的である。
⑥抜き勾配・コーナーR
抜き勾配が不足していれば、いくら金型が磨いてあっても離型抵抗がかなりかかってしまう。またエッジ部分というのも応力が集中してしまうので、設計段階で抜き勾配、コーナーRは可能な限り取るようにして頂きたい。
※型での対策は比較的簡単だが、成形条件(①、②)での改善は難しいので
設計段階より残留応力が溜まらないようにすることが求められる。
まとめ
・非晶性プラスチックはクラックが発生しやすい
・検査方法には破壊検査と非破壊検査がある
・最も簡単に判断できるのは溶剤浸透法
・型での対策は比較的簡単だが、成形条件での改善は難しい
コメント
なぜ非晶性樹脂は残留応力が残りやすいのですか?